先週、ポーランドのクラクフに行ってきました。
城壁に囲まれたクラクフの旧市街は、世界遺産にも
指定されている美しい街です。壊滅と復興を繰り返し、
生き抜いてきた街は寡黙で、慎ましく遠く優しさに満ちて、
こんなにも祖国という響きを感じる街は初めてでした。
着いた夜はさっそく雪景色。ライトアップされた中央広場は
クリスマスのようです。
翌朝、雪の中を小さなバスに揺られて2時間。
アウシュビッツを訪れました。
マイナス10度の凍てつく寒さの中、麻痺していく
体の感覚と入れ違いに、痛みと哀しみの記憶が
全身に突き刺さってくるようでした。
『働けば自由になれる』
逆さまのBは、せめてもの抵抗のしるしだと
言われています。おまえ達の出口は焼却炉の煙突だと、
囚人たちは告げられたそうです。
1足ずつに1つずつの生があったのだと、その叫びすらも
息の止まるほどの静寂にのみ込まれていきました。
「死の壁」の11号館には、地下室18番の房も現存して
いました。 脱走者への見せしめとして、無作為に選ばれ
餓死刑に処せられることになった10人の囚人。
そして、その1人の身代わりを名乗り出て、餓死室で最後には
毒殺されたコルベ神父様・・選び出された他の囚人たちと祈り
讃美歌を歌い、その房は聖堂のような清らかさに満ちていたと、
軍兵の記録に残っているそうです。
今、18号室には十字架が掲げられ、純白のロウソクに
優しく照らしだされていました。
夢の中でも、数えきれぬほどの写真が飾られた、
あの長い廊下を訪れています。
私はことばにする術すら持ち合わせていませんが、
いつの日かこれを音に託すことができたら・・
夕日を浴びて舞い散る淡雪が、この歴史を
ゆっくりと浄化していくようでした。